広島高等裁判所 昭和60年(ネ)153号 判決 1986年8月28日
控訴人
本丸一栄
右訴訟代理人弁護士
小笠豊
被控訴人
全国自動車交通労働組合連合会広島地方本部広島タクシー支部
右代表者執行委員長
佐島正記
右訴訟代理人弁護士
外山佳昌
右当事者間の労働契約関係存在確認等請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴及び当審における控訴人の請求(予備的請求)をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一申立
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 主位的請求
(一) 控訴人が被控訴人に対し労働契約上の権利を有することを確認する。
(二) 被控訴人は、控訴人に対し、金四六七万三三一一円及びこれに対する昭和五四年一一月一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
(三) 被控訴人は、控訴人に対し、昭和五四年一一月一日から毎月二六日限り金一一万七九五〇円を支払え。
(四) 被控訴人は、控訴人に対し、昭和五四年一二月から毎年一二月二二日限り金二一万二三一〇円を、毎年七月一〇日限り金一七万四一五八円を支払え。
3 予備的請求(当審における請求)
被控訴人は、控訴人に対し、金四二三万三八七一円を支払え。
4 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
5 主位的請求につき仮執行の宣言
二 被控訴人
主文と同旨
第二主張
次のとおり訂正及び補足するほか、原判決の事実摘示と同じであるから、それを引用する。
一 原判決の訂正及び補足
原判決二枚目裏二行目の「請求」を「主位的請求の請求」と改め、三枚目表五行目の「原告は」の次に「主位的請求として」と加え、同枚目裏四行目の「請求の」を「主位的請求の請求」と、五枚目表一行目の「川西委員長」を「川西書記長」と、七行目の「醸成し」を「醸成され」とそれぞれ改め、五枚目裏三行目の「旨」の次に「の虚言を」と加え、六枚目表七行目の「忙しいを連発し」を「仕事が忙しい旨を口癖のように申し向け」と、七枚目裏一行目の「側」を「傍」とそれぞれ改め、一一枚目表一〇行目の「二八日」の次に「の朝から昼前まで」と加え、一二枚目表一行目の「同(一)は争う。」を「但し、」と改める。
二 控訴人の主張……予備的請求の請求原因
1 広島高等裁判所は、本件当事者間の同庁昭和五三年(ラ)第二〇号仮処分却下決定に対する抗告事件について、昭和五四年八月三日、被控訴人において控訴人を仮に被控訴人の従業員として取扱うこと及び昭和五四年八月から毎月二六日限り月額八万円を支払うことを命ずる仮処分決定をなし、被控訴人は同年九月一三日到達の内容証明郵便をもって、控訴人に対し、その就労を催告した。そこで控訴人は、同年九月一四日から右仮処分決定が取消された昭和五九年四月一九日まで、被控訴人の指揮命令のもとにその業務に従事した。
2 右就労期間における控訴人の給料月額一一万七九五〇円に夏期と冬期の一時金(五回分)を合計すると七七一万一八九〇円となり、この額に交通費三六万四八〇〇円、退職金七五万六〇〇〇円(勤続一〇か年として計算した額)を加えると八八三万二六九〇円となり、この金額から既に受領ずみの仮払い金(月額八万円)合計四四八万二〇〇〇円を控除した残額は金四三五万〇六九〇円となる。
3 よって、本件当事者間の雇用契約が終了したものと認められる場合には、控訴人は、予備的請求として被控訴人に対し、右残額の内金四二三万三八七一円を支払うことを求める。
三 右二の主張に対する答弁
1 右二の1については、そのうち、控訴人主張の仮処分決定がなされたこと、被控訴人から控訴人に就労を催促したことは認め、その余は否認する。
右二の2については、そのうち控訴人の就労に対して月額八万円の仮払金しか支払わなかったことは認め、その余は争う。
2 被控訴人は、控訴人主張の仮処分決定に従うこととして、控訴人にその就労を催促したものであるところ、それまでに控訴人の後任書記として訴外岡和恵を雇用し、同訴外人において従前控訴人が担当していた被控訴人の書記業務を処理していたため、被控訴人としては控訴人をパートタイマーとして処遇することとし、それに相応する一時的、雑用的な仕事に従事させていた。したがって、控訴人の予備的請求は失当である。
第三証拠…略
理由
第一 主位的請求について
この請求に対する当裁判所の判断は、次のとおり補足及び訂正するほか、原判決の理由中の判示(原判決一二枚目裏五行目の冒頭から二五枚目表九行目の末尾まで)と同じであるから、それを引用する。
1 原判決一三枚目表五行目の「第一六〇号証」の次に「(甲第二、第九ないし第一一、第一七ないし第二〇号証、乙第二一号証、第三三号証の一、二、第三四ないし第四一、第一五七、一五八、一六〇号証については、その各原本の存在についても争いがない。)」と加え、一〇行目の「証人」を「原審証人」と、同行目の「原告」を「原審・当審における控訴人の各」とそれぞれ改め、同枚目裏七行目の「三時以降」の次に「、被控訴人の事務所の近くにある訴外株式会社広島タクシーの」と、一四枚目裏四行目の「三時以降」の次に「、前記」とそれぞれ加える。
2 原判決一八枚目表一〇行目の「弁論」から末行目の「認められる」までを「成立に争いがない」と、同枚目裏五行目と一九枚目表四行目の各「証人」を「原審証人」と、二〇枚目裏一行目の「強い」から二行目の「疑問が残る。」までを「意思であったと推断することは困難であるし、」と、二一枚目表三行目の「原告本人尋問の結果によると、」を「原審における控訴人の本人尋問の結果によると、昭和五二年」と、八行目の「午後四時ころ原告を」を「同日午後四時ころ控訴人を前記広島タクシーの」とそれぞれ改める。
3 原判決二一枚目裏六行目の「原告は、」の次に「まず昭和五二年」と加え、七行目の「原告」を「原審・当審における控訴人の各」と、九行目の「証人」を「原審証人」とそれぞれ改め、二二枚目表三行目の「第一八七号証」の次に「及び弁論の全趣旨」と、四行目の「申請して」の次に「(広島地方裁判所昭和五二年(ヨ)第三三三号仮処分申請事件)」と、九行目の「(」の次に「同庁昭和五三年(ラ)第二〇号事件。」と、末行目の「異議訴訟」の次に「(同庁昭和五四年(ウ)第七九号事件)の第六回口頭弁論期日(昭和五五年五月八日)」とそれぞれ加え、二二枚目裏一〇行目の「証人として」を「原審において証人として、昭和五五年八月二二日までに二回にわたり証言しているところ、」と、二三枚目表一行目の「のに右撤回に何ら触れてない」を「が、右期日に本件発言撤回の告知が行われたか否かに関して、二六日の晩に、茂からこの撤回を被控訴人に告げたか否かを尋ねられた控訴人は、そのきっかけがなかったから未だ言っていないと返答した旨証言している」と改め、三行目の冒頭から五行目の末尾までを削除し、七行目の「ないとし」の次に「(原審・当審における控訴人の各本人尋問の結果、原審証人前原將士の証言)」と加え、八行目と九、一〇行目の各「証人」を「原審証人」とそれぞれ改め、同枚目裏二行目の「結果」の次に「(原審及び当審分)」と加え、同行目の「証人」を「原審証人」と改め、六行目の「第三六、」の次に「第四三、」と、同行目の「記載」の次に「及び原審証人本丸茂の証言」とそれぞれ加える。
4 原判決二三枚目裏八、九行目の「に撤回したと主張し、原告本人は、同日昼前」を「の朝から昼前までに本件発言を撤回する旨を被控訴人に告知したと主張し、控訴人は、原審・当審における各本人尋問において、三月二八日の朝(当審における供述)あるいは同日の昼前(原審における供述)」と、末行目の「労働金庫へ出かけていた」を「外出していて事務所にいなかった」とそれぞれ改め、二四枚目裏八、九行目の「述べることなく」の次に「、川西書記長から三月二四日の本件発言を被控訴人が受理する旨を告げられたのに対して、即座に」と、二五枚目表一行目の「結果」の次に「(原審及び当審分)」とそれぞれ加える。
5 原判決二五枚目表五行目の「従って」から六行目の末尾までを「その他、本件発言が行われてから、被控訴人の川西書記長がこの発言を受理する旨を控訴人に告知したときまでに、控訴人においてこの発言を撤回する旨被控訴人に告知したことを肯認すべき主張及び証拠はない。」と、九行目の「ものと認められる」を「こととなるから、主位的請求は、その余の判断をするまでもなく理由がない」とそれぞれ改める。
第二 予備的請求について
一 広島高等裁判所昭和五三年(ラ)第二〇号仮処分却下決定に対する抗告事件について、同裁判所が昭和五四年八月三日、控訴人主張のような仮処分決定をなしたこと、被控訴人が控訴人に同年九月一三日到着の書面で就労を催足したこと、この催足にしたがった控訴人の労働に対して、被控訴人から月額八万円の仮払金しか支払っていないことは当事者間に争いがない。
しかして、(証拠略)によると、被控訴人が控訴人に就労を催告した前記書面には、被控訴人としては前記仮処分決定が強制執行力を持つので、不本意ながらこの決定に従う旨が記載されていたこと、控訴人は、被控訴人からの催促に応じて昭和五四年九月一四日、被控訴人の事務所に出て、その業務に従事するようになったこと、その後の昭和五九年四月一九日、前記仮処分決定は広島高等裁判所昭和五四年(ウ)第七九号事件の判決言渡により取消されたこと、控訴人はこの仮処分決定が取消された日以降出勤していないこと、控訴人が昭和五四年九月一四日から同五九年四月一八日までに従事した被控訴人の業務の内容は、昭和五六年九月ころの一時期(被控訴人の岡書記が同年八月に退職し、その後の同年一〇月に名越書記が雇用されるまでの期間)だけ、被控訴人の組合員に関する生命保険の掛金をその賃金から控除する事務を行ったのが主たる書記業務であったほかは、すべて書記の主たる業務以外の補助事務または雑用であり、また控訴人の勤務時間は昭和五二年三月末までのものと同様ではあったが、被控訴人から命じられる仕事量が少ないため、その出勤中、手空き時間が多かったことが認められる。なお、控訴人の右仮処分期間中の勤務の対価が右仮払金相当額を超えることを認めるに足りる証拠はない。
右の争いのない事実及び認定した事実にかんがみると、控訴人が昭和五四年九月一四日から同五九年四月一八日まで被控訴人の業務に従事したことは、前記仮処分決定の命令が履行されたにとどまるものと認められ、したがって、被控訴人としては、控訴人の右期間における労働に対して、仮処分決定が命じた月額八万円を仮払いすれば、その義務を履行したこととなり、被控訴人から控訴人にその就労を催促し、また右期間の控訴人の勤務時間が、従前の雇用契約が存在していたときと同じであっても、被控訴人は月額八万円以外の給付義務を負担しないものというべきである。
二 しかして、従前の雇用契約が昭和五二年三月末日限りで終了したことは、主位的請求に対する判断で説示したとおりであるから、昭和五四年九月一四日以降における控訴人の本件労働提供が、右雇用契約に依拠するものであるとみる余地はないし、その他、この労働提供の代償として、被控訴人が月額八万円の仮払金を支払うほかに、給付義務を負担したことを肯認すべき主張及び証拠はない。
三 したがって、予備的請求は理由がない。
第三 よって、控訴人の主位的請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がなく、また当審における控訴人の請求(予備的請求)は理由がないから、本件控訴及び当審における控訴人の請求をいずれも棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 村上博巳 裁判官 滝口功 裁判官 矢延正平)